おはよう、後輩A君。
火曜日だね。昨日の夕方、他部署から「後輩A君を0.5人月貸してほしい。代わりに1人追加するよ」という提案があったのを覚えているかい?
君は「0.5人分損して1人来るならお得じゃないですか?」と思ったかもしれない。算数としては正解だ。でも仕事の現場では「0点」の計算なんだよ。今日は、私がなぜこの提案を断ったのか、その理由を話そう。
1. 「ベテランの0.5」と「新人の1.0」は等価じゃない
プロジェクトマネジメントの世界に「ブルックスの法則」という有名な原則があるんだよ。IBMのエンジニア、フレデリック・ブルックスが提唱したもので、「遅れているソフトウェアプロジェクトに人員を追加すると、さらに遅れる」というものだよ。
なぜか? 新しく来た人を教育するコストが、既存メンバーの生産性を奪うからなんだよ。
今の君は、このプロジェクトの背景も、システムの中身も、チームの呼吸もすべて熟知している。君の「0.5」は「超高密度の0.5」だ。一方、急にアサインされる「1人」はどうだろう? PCのセットアップから、フォルダの場所、業務ルールまで——誰かが教える必要がある。その教育コストは誰が払うんだ?
差し引きで言えば、チームの戦力は「プラス0.5」どころかマイナスになる。これが現実なんだよ。
2. 「スコープ・クリープ」という静かな罠
昨日の提案にはもう一つ罠があったよ。「ついでに、あのリスト整理も後輩A君にお願いできないかな?」という追加依頼だ。
これがまさに「スコープ・クリープ(Scope Creep)」——プロジェクトマネジメントで最も警戒すべき現象の一つだよ。当初合意した範囲が、少しずつ、気づかないうちに広がっていく現象のことなんだ。
PMI(米国プロジェクトマネジメント協会)の調査では、プロジェクト失敗の原因の約52%がスコープの不明確さやクリープによるものだと報告されているんだよ。小さな「ついでにお願い」が積み重なって、プロジェクト全体が崩れていく。昨日の提案は、まさにその入り口だったんだよ。
3. 君の「暗黙知」は、数字で測れない
ナレッジマネジメントの研究者、野中郁次郎氏は「組織の競争力の源泉は、マニュアルに書けない『暗黙知』にある」と言っているんだよ。
君がこれまで積み上げてきた「なんとなくこのシステムはこう動く」「このお客さんはこういう言い方をすると伝わる」という感覚。それは急に来た「1人」では絶対に補えない価値なんだよ。
「誰でもいいから数字上合えばいい」という乱暴な計算で、君を切り売りしたくなかったんだよね。
結論:チームを守るのが私の仕事だ
断ったことで相手チームは不満顔だったかもしれない。でもそれでいい。
私の仕事は他部署にいい顔をすることじゃない。君たちが余計な荷物を背負わされず、本来のパフォーマンスを発揮できる環境を守ることだからね。
後輩A君、今日も外野の雑音はシャットアウトして、自分たちの仕事に集中しようか!
【火曜日のミッション:自分の価値を知る】
- ☐ 今の仕事で「自分にしか分からないこと(暗黙知)」を3つ書き出してみようか
- ☐ 新人が隣に来たら、何を教えるのに何時間かかるか想像してみようか——それが君の「見えないコスト」だよ
- ☐ 次に「ついでにお願い」と言われたとき、スコープクリープを疑う習慣をつけてみようか
- ☐ (後輩A君へ)「自分は代えが効かない存在だ」と、ちょっとだけ胸を張ってみようか。謙虚さは大事だけど、自分の価値を正しく知ることも大事なんだよ


